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会計税金の解説記事

公認会計士・税理士の松本佳之のブログです。 記事は間違いのないように慎重に掲載していますが、
記事の誤りや情報の不足に基づき損害を与えたとしても責任は負いかねますのでご了承ください。

1 5月

一定規模以上の社会福祉法人に会計監査人の設置が義務付けられました

平成28年3月31日、「社会福祉法等の一部を改正する法律」(改正法)が成立、公布されました。
この法律では、福祉サービスの供給体制の整備及び充実を図るため、社会福祉法人制度について経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上等の改革を進めるとともに、介護人材の確保を推進するための措置、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直しの措置を講じることとしています。

社会福祉法人制度についての経営組織のガバナンスの強化の一つとして、一定規模以上の社会福祉法人(特定社会福祉法人)は、会計監査人を置かなければならないこととされました(改正法第37条)。また、社会福祉法人は、定款の定めにより、会計監査人を置くことができることとされました(改正法第36条第2項)。
なお、会計監査人の設置が義務づけられる特定社会福祉法人の規模は、今後、監査費用の負担能力や監査の受入れに係る事務体制を考慮し、専門的な検討をしたうえで政令で定めることとされています。
この改正法は平成29年4月1日から施行されることとなります(改正法附則第1条)。

これまでの社会保障審議会福祉部会の議論において、特定社会福祉法人は

事業活動計算書におけるサービス活動収益の額が10億以上
又は
貸借対照表上の負債の額が20億円以上
の社会福祉法人

とすることが適当との提言が行われており、この提言を踏まえれば、概ね1割程度の社会福祉法人が会計監査人の設置対象になるものと考えられています。
社会保障審議会福祉部会報告書~社会福祉法人制度改革について~

会計監査人とは、独立した第三者の立場から法人の計算書類の監査を行う監査法人または公認会計士のことをいい、評議委員会の決議で選任します。

社会福祉法人の方はこれまで監査法人や公認会計士とあまり馴染みがなかったかもしれません。会計監査人は単に契約すればいいというものではなく、監査法人または公認会計士が社会福祉法人に監査できる体制が整っているかどうかをチェック、受入可能となれば、監査報酬等の諸条件を交渉し、評議委員会で選任決議をすることとなります。つまり一朝一夕に選任できるものではありません。 私も関与しておりますアルテ監査法人では、社会福祉法人監査に関するセミナーを開催しています。監査に関する相談も無料で承っておりますのでお気軽にご相談ください。

30 4月

【平成28年度税制改正】セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)

平成28年度税制改正において、セルフメディケーション(自主服薬)推進のためのスイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)が創設されました。
 
セルフメディケーションとは、世界保健機関(WHO)において、「自己自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当すること」と定義されています。増加し続ける医療費の問題が背景に、適切な健康管理の下で医療用医薬品からの代替を進めることが制度創設の目的です。

この税制は、年間1万2千円以上の一定のスイッチOTC医薬品(医療用から転用された医薬品)を購入し、一定の要件を満たした場合に、その超える部分の金額(最大8万8千円)について、総所得金額等から控除することができる、というものです。なお、現行の医療費控除と併用することはできず、両方の要件を満たす場合にはいずれかを選択適用することととなります。


具体的な要件等は次のとおりです。

■具体的な要件等

・対象者
健康の維持増進及び疾病の予防への取組として、特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診を受けるなどの取組を行う者

・対象期間
平成29年1月1日から平成33年12月31日まで

・所得控除できる金額
一定のスイッチOTC医薬品の購入額(※)-12,000円=所得控除できる金額(最大88,000円)
※自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係るもの

・スイッチOTC医薬品とは
スイッチOTC医薬品とは、要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品で、薬局・薬店・ドラッグストアなどで販売されている医薬品のことをいいます。OTCとは、「Over The Counter」の略で、カウンター越しに薬を販売するかたちに由来しています。
本税制の対象となるかどうかは、医薬品に含まれる成分で判断され、厚生労働省は「租税特別措置法施行令第二十六条の二十七の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める一般用医薬品等」(平成 28 年厚生労働省告示第 178 号)で82の成分を公表しています。今後、具体的な商品名が周知されることが予定されています。


【計算例】

課税所得400万円(所得税率20%)
スイッチOTC医薬品の年間購入額5万円 の場合

所得税の軽減:(50,000円-12,000円)×20%=7,600円
住民税の軽減:(50,000円-12,000円)×10%=3,800円
合計11,400円の減税効果(復興特別所得税は考慮せず)


なお、この特例の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。確定申告する際には、スイッチOTC医薬品を購入したときの領収書や一定の取組を行ったことを明らかにする書類の添付が必要となりますので、それらを保管しておかなければなりません。

また、繰り返しになりますが、年間10万円超の医療費があるなど医療費控除の要件を満たす場合には、どちらが有利かを検討する必要があります。


■スイッチOTC薬控除 or  医療費控除 適用判定フロー
 
スイッチOTC薬控除医療費控除適用判定フロー図


平成28年度税制改正の全体の概要はこちら
 
3 4月

平成28年度税制改正法が成立しました

平成28年度税制改正法案が3月29日に参議院にて可決され、成立しました。

平成28年度税制改正の主なポイントは次のとおりです。

1.法人課税
(1)税率の引下げ
法人税率が、平成28年度には23.4%に、平成30年度には23.2%に引き下げられます。
これにより法人実効税率が20%台となります。

(2)生産性向上設備投資促進税制の廃止
生産性向上設備投資促進税制が平成29年度に廃止されます。

(3)減価償却の見直し
建物付属設備、構築物の償却方法について、定額法に一本化されます。

大法人の控除限度額が次のように改正されます。
平成28年度 所得金額の65%⇒60%
平成29年度 所得金額の60%⇒55%

また、繰越期間が10年となるのは、平成30年4月1日以後に延期されます。

平成28年4月1日以後開始事業年度より資本金1億円超の法人事業税の外形標準(付加価値割・資本割)が拡大されます。

付加価値割              0.72%⇒1.2%
資本割          0.3%⇒0.5%
所得割(年400万円以下) 3.1%⇒1.9%
所得割(年800万円以下) 4.6%⇒2.7%
所得割(年800万円超)  6.0%⇒3.6%

なお、一定規模以下の法人に負担増が生じる場合には、一部を軽減する措置が講じられます(平成28~30年度)。

地方公共団体が行う地方創生事業を国が認定する枠組み(地域再生法の改正)の下で、認定事業に対する寄付金額の一部を税額控除する制度が導入されます。

飲食費に係る損金算入の特例と中小法人に係る損金算入の特例の適用期限が2年延長され、平成30年3月31日までに開始する事業年度まで適用されます。

(8)中小企業者等以外の欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用措置の適用期限延長
中小企業者等以外の法人の欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用措置の適用期限が2年延長され、平成30年3月31日までに開始する事業年度まで、中小企業者等以外の法人は、欠損金の繰戻し還付の適用ができないこととなります。

(9)環境関連投資促進税制(グリーン投資減税)の見直し
風力発電設備の即時償却の廃止など一定の見直しが行われた上で、環境関連投資促進税制(グリーン投資減税)の適用期限が2年延長され、平成30年3月31日までの間に取得した資産について適用することができます。

中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入の特例の適用期限が2年延長されます。ただし、常時使用する従業員数が1,000人を超える法人は除外となります。

中小企業者等が平成31年3月31日までの間に生産性向上設備のうち一定の機械装置を取得した場合、最初の3年間、課税標準に価格を1/2とする措置が創設されます。


2.消費課税
(1)軽減税率制度の創設
平成29年4月1日より「酒類・外食を除く飲食料品」及び「週2回以上発行される新聞の定期購読料」を対象に消費税の軽減税率制度が導入され、軽減税率対象品目の税率は8%となります。

(2)税額計算の方法(適確請求書等保存方式(インボイス制度)の導入)
平成33年4月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます。
それまでの間は、現行の請求書等保存方式が維持されつつ、区分経理に対応するための措置が講じられます。
なお、一定の事業者について、一定期間は簡便な方法による計算等が認められます。

平成28年5月より免税販売の対象となる購入下限額が5千円に引き下げられるほか、手続きの簡素化等の措置が講じられます。


3.個人所得課税・資産課税
所有する居住用の家屋に多世代同居対応改修工事を行い、平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供した時で一定の要件を満たす場合に、税額控除できる制度が導入されます。

平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間、特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診を行う個人が、一定のスイッチOTC医薬品を購入し、その年中に支払った金額の合計額が1万2千円を超えるとき、その超える部分の金額(8万8千円が上限)について、その年の所得から控除できる制度が創設されます。
ただし、この特例を受けた場合には、医療費控除の適用を受けることができません。

(3)空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続前に被相続人しか住んでいなかった家屋やその家屋の敷地となる土地等を、相続により取得した個人が、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡をした場合で一定の要件を満たすとき、居住用財産の譲渡所得の3,000万円控除の特例を適用することができる制度が創設されます。


4.納税環境整備
(1)クレジットカード納付制度の創設
平成29年1月より、インターネット上でクレジットカード納付を可能とする制度が創設されます。

(2)マイナンバー記載の対象書類の見直し
マイナンバーを記載することによる本人確認手続等、納税者の負担が増加することを踏まえ、税務関係書類(申告書及び調書等を除く。)のうち申告等の主たる手続と併せて提出されることが想定される等の一定の書類について、原則、平成29年1月より、マイナンバーの記載を不要とする見直しが行われます。

(3)加算税の加重措置の導入
過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を賦課されたものが、再び「無申告又は仮装・隠蔽」に基づく修正申告書の提出等を行った場合については、平成29年1月より、加算税を10%加重する措置が導入されます。